今回は、中小企業庁部長さんの動画を通して「より説得力のある事業計画とは何か?」について書いてみたいと思います。キーワードは「計画の骨組み・コンセプトの「抽象化」」ということになります。
先日、当ブログでも事業再構築補助金の行政レビュー(公開プロセス)の結果について書きましたが、行政レビューの質疑応答の中で、中小企業庁の部長さんが以下のとおり発言しております。
「最近、細谷先生の「具体と抽象」という本が売れているようでございますが、やはり抽象化能力が徹底していない。抽象化能力が徹底していないと、理想像とTo-beモデルが書けず、したがってその現状との間の差分にあるべき課題が書けない。これは相当深刻だなと思いまして、恐らく直感的に考えていることが、そこまで重点に拾うわけではないのですが、書き物にするというところで、逆に言うとしようもないことを考えていても、書き物上手だとよく見えてしまうと。まだそのレベルでございます。」
また、同じ中小企業庁の部長さんが「事業計画書作成のアドバイス」を説明した動画が、先日Youtubeにアップされています。>>https://www.youtube.com/watch?v=jZOtYcaTIaw
1)この動画は27分ものですが、「6:00~11:00」の5分間の部分だけでも視聴することを、今後事業再構築補助金へ申請する方へ強く勧めます。(5分だけでOKです)5分間の説明の要点は以下のとおり。
- 再構築としてやりたい事業の「理想=To-Beモデル」を描いた上で、事業規模の推定(目標設定)は重要!
- 例えば、勘と経験で「商売としてなんとかなる」と予想しても、顧客規模をFact&Figure(具体的なもの)を土台に論理を構築・想定しないと、結果として以下のようなことになる。
- 300万円増えることは良いが、それに見合う投資になっているかが重要。
- なんで顧客規模(の想定)が大切かとというと投資対効果が図れないから。
- 「これが株式投資であれば、誰も投資しない。だって、その設備投資が妥当なリターンを生むか分からないですか」とも言ってます。(確かに正しいでしょう!)
- 現状、事業者が「とはいえ、顧客規模をどう見積もったら良いか分からないよ!感覚的だけで、これぐらいお客さんが来ると思うんだ!」と考えることは「今はしょうがない」けど、それを超えていかないと本当の事業再構築にならない。
- 「事業計画を作って、今ままでとは全く違くお客さんを探す、新しい取引先を探す」ということを、自分の業界の事を良く知らない審査員に理解してもらえるようにするたには、「パズルのように組み立ててでも「私の理想はこれです」(妥当な顧客規模であり、事業の実現性が高いこと)を「論理」で説明する必要がある。
- これが「抽象化」だとした上で、「抽象化したスゴイとうことはないが、抽象化しなければ伝わらない場面と相手がいる」とあります。(ここで言う「相手」とは審査員の事かと)
- その上で以下のとおり言っています。
- だから、まずは骨組み(抽象化した理想)を始めに描いて、「僕の作りたいのはこういう骨組み(理想)」ということを示す作業が、まず必要。それに対して、理想と現実の「差分」はこういうことであるので、「こういう新しい製品。サービスと投入するんだ!」「そこには、僕のこういう技術が使える」「そこには、これだけのお客さんがいるはずだ(顧客規模)」、「だから、これだけのお金(投資)が必要なんです」ということを論理的に「言葉にする」必要がある。
以上、正に正論であり、コンサルの基本姿勢・アプローチかと思います。私も長くメーカーでコンサル業務に携わってましたので、部長さんのアドバイスは十分肌で理解できます。
事業計画の「骨組み」「コンセプト」は、具体的な事実をベースに「抽象化し、論理的に構成する」ことが確かに重要です!なにせ、新しく参入する市場・顧客のことは、基本、勘と経験があまり頼りにならないので、調べ上げた事実・数字に基づきながらも「推定」「仮定」しながらベストの理想像・計画を策定するしかないですので。
(新しい事業に参入する)事業再構築の事業計画書の作成において、「骨組み」「コンセプト」がロジカルに説明されていないと、説得力を持たないことは間違いないです。(ただし、記述自体はは具体的であるべきです!具体的でないと、何を言いたいの分からないことが多いですので)
2)長々と書きましたが、最後に部長さんが言っている「具体的な事実・数字から抽象化して、重要な「顧客規模」を算出するヒントをひとつ。「フェルミ推定」といいますが、ご存じの方のいらっしゃるのでは。
「フェルミ推定」とは、例えば「東京都内にあるマンホールの総数はいくらか?」「地球上に蟻は何匹いるか?」など、一見見当もつかないような量に関して推定することを言います。コンサルに必要な一つの能力と思われているようで、昔はコンサル会社の新卒採用面接でよく用いられていたようです。(大分昔の話です、今でもそうなのでしょうか?)
以下、ウィキペディアにあるフェルミ推定の事例ですが、皆さんが事業再構築事業で「事業規模=理想」を想定する際、少しは役に立つ考え方だと思います。
事例:「アメリカのシカゴには何人(なんにん)のピアノの調律師がいるか?」 この問題に対して、例えば次のように概算できる。
1)まず以下のデータを仮定する。 *シカゴの人口は300万人とする
*シカゴでは、1世帯あたりの人数が平均3人程度とする
*10世帯に1台の割合でピアノを保有している世帯があるとする
*ピアノ1台の調律は平均して1年に1回行うとする
*調律師が1日に調律するピアノの台数は3つとする
*週休二日とし、調律師は年間に約250日働くとする
2)そして、これらの仮定を元に次のように推論する。 *シカゴの世帯数は、(300万/3)=100万世帯程度
*シカゴでのピアノの総数は、(100万/10)=10万台程度
*ピアノの調律は、年間に10万件程度行われる
*それに対し、(1人の)ピアノの調律師は1年間に250×3=750台程度を調律する
*よって調律師の人数は10万/750=130人程度と推定される
「フェルミ推定」は、あくまでも「推定」ですので、現実との誤差があるのは当然です。しかし、何の根拠もない(勘と経験だけの)「顧客規模」から出てきた売上計画と、推定としても市場・顧客について真剣に考えた上での売上計画では、審査員の評価が大きく違うのは間違いないですよね!